心臓外科インド留学日記

卒後沖縄の市中病院で研修し、3年間大学病院の心臓外科に所属していました。2017年3月よりインドのバンガロールにある病院で心臓外科フェローとしてトレーニングを始めました。

先輩心臓外科医

先日インドネシアでフェローを行い、現在日本でご活躍されている先生が見学にいらっしゃいました。

 

インドネシア留学を志した動機、留学時代の手術経験、インドネシアでの生活、今後の目標などをお話ししていただきましたが、ものすごく刺激を受けました。

 

同じアジアでもインドとインドネシアでは留学環境は大きく違うようです。

手術に関しても先生はインドネシア時代に一通りの手術を執刀できるようになり帰国していますが、残念ながらインドではそのような経験をできる可能性はほぼありません。

 

ただここに来てから日本では得ることのできないことを大量に経験できているのは確かなので、先生が実践しているように日本に帰ってからその経験を他の外科医に還元できるようになれたらなと思います。

引っ越し

インドに来てからはホテル住まいをしていましたが、家賃が高いこと、病院から少し遠いことから、先日病院から徒歩圏内のアパートに引っ越しをしました。

 

引っ越す前に同じ場所に住んでいたレジデントの家をちらっと見せてもらい、寝るだけなら大丈夫かと思い引っ越すことを決意しましたが、実際に来てみると想像を絶するような過酷な環境でした・・・

 

家賃はホテルの時の7分の1以下になりましたが、

・シャワーがない

・お湯がなかなか出ない

・網戸から大量の蚊が入ってきてうるさくてほとんど寝れない

・電気がつかない

・ちょっと前まで人が住んでたのにどこを拭いても雑巾がすぐ真っ黒になる

・ヤモリやゴキブリが出る

・救急車の音が何時でも聞こえる

など日本では考えられないようなことが当たり前のように起こり、今までどんなに恵まれた生活をしていたんだろうと感じます。

すでに心が折れそうですがなんとか環境に慣れ体調を壊さないように頑張りたいと思います。

大規模センターのメリット

この病院の一番の利点はやはりスタッフの人数が豊富なことだと思います。

 

手術室が20室あってそれぞれに機械出しをできる看護師、人工心肺を回せる技師、麻酔科医がいて、常に万全の状態で手術にのぞむことができます。

そして素晴らしいことに緊急で人工心肺が必要となっても常にプライミングされた人工心肺機器が準備されているのですぐにカニュレーションして人工心肺にのせることができます。

 

 

日本にいるときは機械出しできる看護師が少なく、人工心肺を回せる技師の人数も少なかったので、緊急症例の際には寝ているところを電話で起こし来てもらうことも珍しくありませんでした。

 

それが心臓外科の常識だと思っていましたが、ここに来て色々話を聞いてみると、そんな状況なのは日本だけなのかなという気がしてきます。

 

手術の技術としては日本で見てきたものの方がずっと上だとは思いますが、心臓外科のチーム全体としてのレベルでいうとこのような大規模センターにはやはりかなわないのかなと感じます。

 

常に決まった医師、看護師、技師に頼るのではなく、ある程度高いレベルで安定した成績を残すといったことを目標とするならば日本も症例を集約化し心臓外科手術を行う施設を限定していくことがこれから必要になってくると思います。

小児心臓外科

私の知る限りでは日本の心臓外科医で成人も小児もやるという人は見たことありませんでしたが、この病院では何人かのコンサルタントは成人の手術だけではなく小児の手術も行います。

 

私がこの病院に来てから見た小児の手術は、ASD closure, VSD closure(single, multiple), Fallot四徴症に対するICR, 大動脈弁狭窄症(二尖弁)に対するRossや大動脈弁形成術です。

その全てを普段は成人の手術をしている先生が執刀していました。

 

今まで小児の手術にあまり入ったことがなく、全てが新鮮なことばかりなのですが、特に自己組織を利用して修復する手術を学ぶことができるというのは非常に貴重な経験だと思います。

 

日本ではなかなか経験できないことなので、この経験を無駄にせず、成人の手術に活かせるように勉強したいと思います。

 

抗菌薬

インドでは抗菌薬に対する耐性菌が蔓延しており深刻な問題になっているようです。

 

そのためかどうかはよく分かりませんが、開心術後の抗菌薬投与は48時間も継続しています。

また術後発熱するとすぐにゾシン等の広域をカバーする抗菌薬を開始します(幸い血液培養はしっかりとっています)。

 

耐性菌増加の理由としては処方箋がなくても一般人が気軽に各種抗菌薬が手に入っていまうこと(バンコマイシンが欲しいと言えばすぐ手に入るようです・・・)や鳥などの飼育に抗菌薬が多く使われていることが挙げられるようです。

 

日本人からすると信じられないことですが、耐性菌の増加は日本でも起こり得るので、培養をしっかりとり、結果が出れば迅速にde-escalationしていき、治療期間を考え漫然と継続しない。この基本をしっかり守ることが一番大切だと思います。

インド人の語学力

こちらに来て一番大変だと感じたことはやはり語学の面です。

 

来る前は必要に迫られて話していたら自然と使えるようになるだろうと少しは期待していたのですがやはりそれは甘い考えでした・・・。

 

私の考えですが、よほど優秀な人でない限り、単に生活しているだけではリスニングやスピーキングはあまり上達しないと思います。まずは自分で勉強しインプットして、周りと会話して勉強したことをアウトプットできるようにする。地道で根気のいる作業ですが、やはり話せるようになるにはこの方法しかないんじゃないかなと思います。

 

 

前にも書きましたが私の病院では色々な言語が飛び交っています。

こちらのレジデントに聞くと、多い人では9種類、少ない人でも3種類の言語を話すことができるようです。

「どうやって覚えたの?」

と聞くと、英語に関しては

「授業が全部英語だから」

とのこと。他の言語に関しては

「子供の頃から周りが使ってたから自然と覚えた」

と言っていました。

 

ここに来て、様々な国の人達が流暢な英語を話しているのを聞くと、共通言語としての英語の大切さに気付かされます。今の日本でいきなり授業を全て英語にすることは不可能であり、良いことだとは思いませんが、医学生の段階から普段英語に触れることのできる環境が整ってくると良いですね。

トレーニングコース

私の病院のレジデントのトレーニングのコースには2種類あります。

 

1つは一般外科を3年間、その後心臓外科を3年間で合計6年間のコース。もう1つは心臓外科のみ6年間のコースです。

話を聞くと後者の方が多い印象を受けます。

 

最初の1年は一般外科や麻酔科、人工心肺のトレーニング、ICU管理を学びます。2年目から手術に入るようになり、3年目からは手技も増え、内胸動脈採取や冠動脈中枢吻合、人工心肺着脱、単純な開心術を行うようになります。

 

2〜4年目では小児心臓外科や呼吸器外科のローテーションも行います。ただ血管外科に関しては完全に分かれており、ローテーションも行わないとのことです。

 

その後は色々なコンサルタントの下で6ヶ月間ローテーションし、6年目が終了すると他の病院に移ったり、海外に出たりするようです。

 

その6年間のトレーニングの間で、個々の差はありますが、ある程度の手技を経験することができます。

 

私からみると非常に魅力的な環境に思えますが、インドの症例の多さと訴訟のリスクの低さ等があって成り立つもので、なかなか日本で真似できることではないですね。

 

私のような海外からの外科医がどれほど手技の機会を与えられるのかわからないですが、必死に努力してチャンスを待とうと思います。