心臓外科インド留学日記

卒後沖縄の市中病院で研修し、3年間大学病院の心臓外科に所属していました。2017年3月よりインドのバンガロールにある病院で心臓外科フェローとしてトレーニングを始めました。

胸骨ワイヤー

私の病院では閉胸時の胸骨ワイヤーはほとんどの外科医が4本のfigure-of-eightです。

 

日本ではstraightしか経験したことがなかったので最初はやりにくさもありましたが、慣れるとテクニックとしては難しいものではありません。むしろ前立ちなしで一人で閉胸するときにはstraightよりもやりやすい気がします。

 

いくつかの論文を読んで見ましたが、術後の胸骨離開の頻度に関しては有意な差はないようです。

 

日本とインドでは細かい手技にかなり違いがありますが、どちらも身に付けることができる環境にいるのは非常にありがたいことだと思います。

外国人登録(FRRO)

インドに入国してからもいくつか手続きが必要ですが、その中の大切なものにFRRO(Foreigner Regional Registration Office)という外国人登録があります。

 

インドに180日以上滞在する外国人は必ず登録しなければいけないもので、インド入国から14日以内に行う必要があります(それをこえると罰金があるそうです)。

 

私はこのようなことがあるのも知らず、期限直前になって、病院の留学生担当の人から突然

「明日で予約したから登録に行って来て!」

と言われました。

 

事前にオンラインで記入しプリントアウトした書類、パスポート、写真などが必要になります(私の場合は病院で書類を準備してくれました)。

 

当日はバンガロール市内にあるFRROにタクシーで行き申請を行いました。

 

まずは顔の認証が行われToken Numberというものが発行されます。

その紙に窓口と番号が書いてあります。

 

その後書類を見せ抜けがないかの確認をされます。

 

書類が全て揃って抜けがないのを確認したら、呼ばれるまでひたすら待機です。

毎日たくさんの外国人が来ているのに、働いている人は全く急ごうとしないのでなかなか進みません。

 

2時間くらい経ったところで呼ばれようやく書類を提出しました。

 

その後は書類が完成するまでまたひたすら待機。

 

合計で4時間以上待ちました・・・。

 

私にとっては地獄のような時間に感じましたが、ネットで見ると午前に行って夜に終わった人もいるようなので、それに比べると恵まれていたのかもしれませんね。

2ヶ月間の経験症例数

インドに来てから2ヶ月が経ちました。

 

インドに来る前はどうなることかと不安でいっぱいでしたが、来てみると2ヶ月はあっという間で、2年なんてすぐに終わってしまうと焦って、そちらの方が不安になっています。

 

2ヶ月間で経験した症例は以下の通りです。

 

CABG 43件

AVR 5件

MVR 3件

Bentall 4件(redo 1件)

David 1件

PTE 6件

Distal arch replacement 1件

VSD closure 2件

 

 

経験した手技は以下の通りです。

 

開胸 15件

閉胸 13件

SVG採取 37件

冠動脈中枢吻合 1件

 

ほとんどがCABGなのは、CABGしかしていないコンサルタントについていたからで、全体の割合がここまで極端なわけではありません。

 

この手技の数が多いのか少ないのかよくわかりませんが、症例の数としては日本にいる時よりもかなり多いと思います。

 

 

同じことを繰り返しこなすのは、かなりストレスは溜まりますが、ここに来てまず、

「最初はゆっくりだけど途中からどんどん経験できる手技が増えてくるだろう」

と言われたので今はそれを信じてひたすら基本的な手技をこなしています

看護師とPhysician Assistant

私のいる病院では日本に比べ看護師が許可されている仕事が圧倒的に多いです。

 

CVやA-lineの抜去はもちろんのこと、ICUではCVの挿入を許可されている看護師もいます。

 

また私の病院にはPhysician Assistantがいます。手術室ではSVGをとったり、SVGをとった後の創部を閉じてくれたり、閉胸を手伝ってくれたり、日本の若手外科医と同じようなことをやってくれます(時間はかかりますが非常に丁寧にやってくれるので創部はきれいです)。

 

日本では上に書いたほとんどの仕事を医師がやっていると思いますが、こちらの人に言うと

「そんなこと全部やってたら仕事終わらないだろ」

ともっともなことを言われます。

 

外科医は手術だけできればそれでいいとは全く思いませんが、看護師の裁量を増やしたり、PAを導入して、これからは少しでも手術や重症患者の管理に集中できるような環境を作っていかなければならないと感じます。

Off-pump CABGのスペシャリスト

先週はOPCABが得意なRameshというConsultantの手術に参加し、一週間まるまるOPCAB漬けの生活でした。

 

手術室は2部屋を使い、それぞれの部屋で2人でバイパスグラフトを採取し、末梢吻合のところだけConsultantが来て、1日4件の手術をこなします(グラフトを採り終わってからなかなか手術室に来ず、待ち時間が非常に長いのですが、全ての症例が終わるのは7時から9時の間くらいです)。

 

先週参加した症例では使ったグラフトはLITASVGのみ。年齢に関係なく静脈グラフトを使っていました(Consultantによっては稀にradial arteryを使う人もいます)。

 

Rameshは60歳過ぎの陽気なおじさんといった感じで、手術中もいつも歌っています。

 

4年前にこの病院に来たそうですが、4年間で執刀した症例はなんと3500例。

そのほとんど全てがOPCABです。

私はまだ見たことはありませんが内胸動脈も電気メスのみで10分程でとってしまうようです。

 

60歳をこえてもこれだけの症例をこなし、若手外科医とも積極的にコミュニケーションをとり指導している姿は本当に格好良く尊敬できます。

 

近いうちにRameshが内胸動脈採取の指導をしてくれるそうなので今から楽しみです。

インドの手術器具

私がいる病院は貧困層向けの病院のためか手術器具の多くを再利用し経費を削減して患者負担を少なくしています。

 

送血管や脱血管のcannula、CABGの時に使うOctopus Stabilizerはもちろん再利用。

人工血管も清潔に取り出すようにして必要な分だけを切り取り、残りは別の手術で使います。

 

持針器、摂氏、メッツェンは10年以上使っているものもあり、特にメッツェンは古いのに当たると切れ味は本当に最悪です・・・。

 

ここで働いていると、日本の手術器具の素晴らしさを実感すると同時に、それが当たり前だと思っていた過去の自分が恥ずかしくなってきます。

 

大変ではありますが、このようなことを感じることができるのも留学の大きなメリットかもしれないですね。

 

肺動脈血栓内膜摘除術(Pulmonary Thromboendarterectomy)

先日CTEPH患者に対するPTEの症例が非常に多いと書きましたが、重症患者の術後管理はかなり大変です。

 

中枢性のCTEPHで全て取り切れた症例ではPAも100mmHg程度あったものが30mmHg程に低下し、自覚症状も劇的に改善します。

 

ただ術後に末梢に病変が残っている症例ではECMOやPCPS(私の病院ではPCPSは行わないので全てECMO)での管理が必要になることも多いです。

 

先日も30歳代のCTEPHの患者で大変な経験をしました。

 

術後一度抜管したものの呼吸状態が悪くなり、再挿管。PAも体血圧と同じくらいまで上昇し、central ECMOを導入。

下肢循環不全によるコンパートメント症候群を合併し、fasciotomyを行い、DICによる出血傾向でドレーンからの出血が止まらないため再開胸止血。

後日、肺動脈造影で残存病変があったためBPAを施行しました。

 

CTEPH術後の重症患者の管理ではこのようなことはざらにあるようです。

 

インドに来てから1ヶ月余りで6例のPTEを経験しましたが、ここにいる間に手術手技はもちろんですが、周術期管理、手術適応についても十分に勉強したいと思います。