心臓外科インド留学日記

卒後沖縄の市中病院で研修し、3年間大学病院の心臓外科に所属していました。2017年3月よりインドのバンガロールにある病院で心臓外科フェローとしてトレーニングを始めました。

レジデント3年目

今のコンサルタントの下には3年目のレジデントが2ヶ月程のローテーションで回ってきています。

 

こちらの3年目はカニュレーションや内胸動脈採取を始めるようになる時期であり、皆自分にやらせろというアピールがすごいです。

いつも手洗いの前に私がコンサルタントに電話をして「今から始めます」と伝えるのですが、電話の前に「カニュレーションさせてもらえるように頼んでくれ」と言ってきたり、私がカニュレーションをするように言われた時でも「開胸とpurse stringの糸かけまでは自分にやらせてくれ」とかしつこいくらいに頼んできます。

 

今のコンサルタントは「自分のやり方を完全にコピーするように!」といつも口すっぱく言っており、全ての操作で電気メスを50Wを行ったり(内胸動脈を採取するときは25W)、カニュレーションの糸かけの針糸は全て4-0prolene 26mmとかなり大きな針を使ったり、いくつかこだわりがあります。

 

レジデントもやる気があるのは良いのですが、実際にやらせてみると皮膚を電気メスで焦がしたり、大動脈の糸かけが深すぎて血腫を作ったり、自分のやり方を突き通そうとしたり、みていてヒヤヒヤすることが多いです。

自分が3年目の時を考えたらまだ何もできない時期だったので偉そうなことは言えないですが、なんとかローテーションしている間にカニュレーションを自信を持ってできるくらいまで指導できるようになればいいなあと考えています。

留学の時期

私がインドに来たのはちょうど医者6年目になる頃でしたが、留学の時期はどちらかというと早い方だと思います。

ただインド限定ですが、このくらいが今考えると一番良い時期だったのかなと感じます。

 

ちなみに日本ではほとんど執刀経験がなく、カニュレーションに少し慣れてきたかなという程度でした。

 

インドでの最初の半年間はたまに開閉胸をやらせてくれるくらいで精神的にもかなりきつかったのですが、その後新しいコンサルタントの下についてからは、開胸・人工心肺装着・人工心肺離脱・閉胸をほぼ全ての症例でPhysician Assistantを前立ちにして行い、最近ではCABGのときは全例で内胸動脈採取を任せてくれるようになりました。

 

執刀経験を積むにはインドは不向きかと思いますが、人工心肺着脱、内胸動脈採取等の基本的な手技を莫大な数経験できているのは自分にとってかなり大きなプラスになっていると思います(執刀経験を多く積んだ人にとっては退屈で仕方ないかもしれませんが・・・)。

 

同年代の心臓外科医がどのようなことを日本や他の国でやっているのか気になるところではありますが、ここにいる間に基本的な手技を完璧にすること、基本的な手術を自信を持って執刀できるようになることを目標にしてがんばろうと思います。

僧帽弁形成術

インドの大規模病院にいて一番感じる大きなメリットは色々な外科医の工夫を見ることができることだと思います。

 

今のコンサルタントの僧帽弁形成術を行う際の工夫の一つはリングの前尖の中央の部分を結紮する時に間にフックを挟みあえてゆるく結紮するということです。

理由は直接は聞いたことはありませんが、大動脈弁との干渉を予防するためでしょうか。

 

それがどの程度術後経過に影響するのかはわかりませんが、理論的には非常に納得できる工夫だと思います。

 

手術以外の業務

新しいコンサルタントの下で働くようになってから手術以外にも病棟業務、外来、データ整理、サマリー、他科へのコンサルト等、他のレジデントと同じ業務を求められるようになりました(というか、データ整理がある分レジデントより多いです...)

 

今までは手術に集中していれば良く、日曜日は休みだったのですが、今は休日はなしで働いています。

病棟業務は日本ほど大変ではないのですが、インド人特有のlazyさにはかなりストレスが溜まってしまいます。

朝手術が始まる前に回診に行き、採血やエコー、レントゲン等をやるように頼んでも、夕方になっても結果が出ていることはほとんどありません。そこでまた急かしてようやく数時間後に結果が出るという感じです。

ナースステーションでは患者や家族が前を通っているのにコーヒーを飲み、お菓子を食べており、上の先生が通った時だけおしゃべりをやめるといった感じです。

 

かなりイライラしますがインドでは普通なのでしょうか。他の国がどのような感じなのか気になるところですね。

インドの食事

やはりインドで生活する中で一番つらいのは食事です。

食事が合わずこちらに来てから半年間で10キロ程減ってしまいました,,,

 

だいたい平日は朝から晩まで病院にいるので三食とも病院で食べています。

朝はイドゥリという白いパンのようなものとサンバルという日本でいう味噌汁のような辛いスープ。

昼はチャパティやロティとカレーの組み合わせ。

夜はフライドライスやサウスミールスと言われる南インドの定食のようなもの。

野菜や魚を食べる機会はほとんどなく、基本的には炭水化物のみといった感じです。

 

高級レストランまで行けば美味しいインド料理を食べられるのですが、車で1時間ほどかかってしまうので数ヶ月に1回しか行けません。

住んでいるところ周辺では美味しいと思う食べ物はなく、食事が楽しみではなく、まさに生きるためになんとか口にしているという感じになっています,,,

 

あと1年4ヶ月程の予定ですが、もうインドの食事に慣れることはないと思うので日本から送ってもらいながらなんとか暮らしていきたいと思います。

 

近況

久々の投稿です。

やはり少しサボってしまうと駄目ですね,,,

 

9月から新しいコンサルタントの下でトレーニングを行なっています。

プリヤンカという弁形成を専門とするコンサルタントです。

見た目は太ったおっさんといった感じで、非常に気性が荒く常に怒鳴っていますが、細かい作業がうまいです。

 

特にリウマチ性のMS、MRに対する弁形成は非常に勉強になります。肥厚した組織を薄皮を剥ぐように丁寧に剥離していき、comissureの形を整え、逸脱があれば人工腱索をたて、リング(大抵はカーペンターエドワーズのclassic ringかSJMのsaddle ring)を使って形成します。

一度形成を試みたらどんなに時間をかけても形成で終わらせるという姿勢も勉強になります。

 

現在私が任されている手技としては、開胸、人工心肺装着、人工心肺離脱、止血、閉胸であり、メインのところだけコンサルタントが手洗いをして入るといった感じです。

週に6件ほど人工心肺着脱を行うので基本的な手技を鍛える場としてはこれ以上ない環境と言えるかもしれませんが、やはりここまで来ると執刀の機会が欲しくなってしまいます。

 

これからはサボらないように近況をアップしていきたいと思います。

コスト削減

この病院のコンセプトとしてとにかくコストを削減して患者の経済的負担を少なくするということがあります。

 

ただICUでの術後管理に関してはそこまでコストを削減しようと努力している感じはしません。

ECMO、IABP、透析は積極的に回しますし、高価な薬剤も躊躇なく使っていて、そこまで日本と変わらないなという印象を受けます。

むしろ手術時間も長くICUの滞在期間は日本よりも長いため、日本とインドで同じ物価ならインドの方がよりコストはかかっているのかもしれません。

 

こちらに来て気付いた日本ではみられないコスト削減の主な方法は以下のものが挙げられます。

・可能な限り道具は再利用

・高い手術器具や材料は使わない

・人件費の削減(というより給料が低い)

・患者の家族が24時間付き添って身の回りの世話ができるようにし退院がスムーズにできるようにする

 

上記に挙げたコスト削減の方法、特に道具の再利用や家族の付き添いはある程度は可能だと思うので日本の病院も見習っていくべきかなと思います。