心臓外科インド留学日記

卒後沖縄の市中病院で研修し、3年間大学病院の心臓外科に所属していました。2017年3月よりインドのバンガロールにある病院で心臓外科フェローとしてトレーニングを始めました。

看護師とPhysician Assistant

私のいる病院では日本に比べ看護師が許可されている仕事が圧倒的に多いです。

 

CVやA-lineの抜去はもちろんのこと、ICUではCVの挿入を許可されている看護師もいます。

 

また私の病院にはPhysician Assistantがいます。手術室ではSVGをとったり、SVGをとった後の創部を閉じてくれたり、閉胸を手伝ってくれたり、日本の若手外科医と同じようなことをやってくれます(時間はかかりますが非常に丁寧にやってくれるので創部はきれいです)。

 

日本では上に書いたほとんどの仕事を医師がやっていると思いますが、こちらの人に言うと

「そんなこと全部やってたら仕事終わらないだろ」

ともっともなことを言われます。

 

外科医は手術だけできればそれでいいとは全く思いませんが、看護師の裁量を増やしたり、PAを導入して、これからは少しでも手術や重症患者の管理に集中できるような環境を作っていかなければならないと感じます。

Off-pump CABGのスペシャリスト

先週はOPCABが得意なRameshというConsultantの手術に参加し、一週間まるまるOPCAB漬けの生活でした。

 

手術室は2部屋を使い、それぞれの部屋で2人でバイパスグラフトを採取し、末梢吻合のところだけConsultantが来て、1日4件の手術をこなします(グラフトを採り終わってからなかなか手術室に来ず、待ち時間が非常に長いのですが、全ての症例が終わるのは7時から9時の間くらいです)。

 

先週参加した症例では使ったグラフトはLITASVGのみ。年齢に関係なく静脈グラフトを使っていました(Consultantによっては稀にradial arteryを使う人もいます)。

 

Rameshは60歳過ぎの陽気なおじさんといった感じで、手術中もいつも歌っています。

 

4年前にこの病院に来たそうですが、4年間で執刀した症例はなんと3500例。

そのほとんど全てがOPCABです。

私はまだ見たことはありませんが内胸動脈も電気メスのみで10分程でとってしまうようです。

 

60歳をこえてもこれだけの症例をこなし、若手外科医とも積極的にコミュニケーションをとり指導している姿は本当に格好良く尊敬できます。

 

近いうちにRameshが内胸動脈採取の指導をしてくれるそうなので今から楽しみです。

インドの手術器具

私がいる病院は貧困層向けの病院のためか手術器具の多くを再利用し経費を削減して患者負担を少なくしています。

 

送血管や脱血管のcannula、CABGの時に使うOctopus Stabilizerはもちろん再利用。

人工血管も清潔に取り出すようにして必要な分だけを切り取り、残りは別の手術で使います。

 

持針器、摂氏、メッツェンは10年以上使っているものもあり、特にメッツェンは古いのに当たると切れ味は本当に最悪です・・・。

 

ここで働いていると、日本の手術器具の素晴らしさを実感すると同時に、それが当たり前だと思っていた過去の自分が恥ずかしくなってきます。

 

大変ではありますが、このようなことを感じることができるのも留学の大きなメリットかもしれないですね。

 

肺動脈血栓内膜摘除術(Pulmonary Thromboendarterectomy)

先日CTEPH患者に対するPTEの症例が非常に多いと書きましたが、重症患者の術後管理はかなり大変です。

 

中枢性のCTEPHで全て取り切れた症例ではPAも100mmHg程度あったものが30mmHg程に低下し、自覚症状も劇的に改善します。

 

ただ術後に末梢に病変が残っている症例ではECMOやPCPS(私の病院ではPCPSは行わないので全てECMO)での管理が必要になることも多いです。

 

先日も30歳代のCTEPHの患者で大変な経験をしました。

 

術後一度抜管したものの呼吸状態が悪くなり、再挿管。PAも体血圧と同じくらいまで上昇し、central ECMOを導入。

下肢循環不全によるコンパートメント症候群を合併し、fasciotomyを行い、DICによる出血傾向でドレーンからの出血が止まらないため再開胸止血。

後日、肺動脈造影で残存病変があったためBPAを施行しました。

 

CTEPH術後の重症患者の管理ではこのようなことはざらにあるようです。

 

インドに来てから1ヶ月余りで6例のPTEを経験しましたが、ここにいる間に手術手技はもちろんですが、周術期管理、手術適応についても十分に勉強したいと思います。

患者背景

日本では60歳代の患者がいると若いなあと感じていましたが、インドでは60歳を越える患者はほとんどいません。

 

私がいる病院が貧困層向けの患者層をターゲットにしている病院だからかもしれませんが、ほとんどが30−50歳代であり、中には20歳代の患者も混じっています(ちなみにインドの平均寿命は66歳のようです)。

 

その原因としてはインドには未だにリウマチ熱を罹患する患者が多く、若年の糖尿病の患者、遺伝性疾患を持つ患者等が多いことがあるようです。

 

疾患としてはリウマチ性の弁膜症や冠動脈疾患が多いのに加え、CTEPHの患者が非常に多いです。プロテインC欠損症やプロテインS欠損症等の血栓傾向を持つ患者が多いためのようですが、日本ではPulmonary Thromboendoarterectomyの手技をほとんど見たことがなかったため非常に勉強になっています。

 

若手心臓外科医

私がいる病院では若手にやらせる手技の量としてはかなり多い方だと思います。

 

私の面倒をよく見てくれている非常に優秀な31歳の外科医がいるのですが、すでに1000本近くの内胸動脈採取、1000回近くの中枢吻合を経験しており、単純な弁膜症や先天性疾患、On-pump CABGの執刀も数多く経験しています。

 

他のあまり勉強しているようには見えない自分より若い外科医が色々手技をやっているのを後ろから見ているのはかなりストレスが溜まりますが、Consultantの先生は細かいところまできっちり指導しており、それを聞いているのは非常に勉強になります。

 

手術室が20部屋あり、時間の制約があまりなく、麻酔科の医師や看護師等の理解もあってできていることだとは思いますが、手術手技のトレーニングのためには理想的な環境が整っていると感じます。

術後管理

私のいる病院ではConsultant、Fellow、Residentがグループ(2-3人)になって手術や術後管理を行っています。

 

術後ICUではシフト制で働いているICU専任ドクターが中心となってみて、問題があった場合に当直医や主治医グループに連絡がいくという仕組みです。

 

当直は平均して月に5回程度であり、体力的にも十分余力を持って働くことができます。

 

他にも医師の代わりにドレーン抜去等の業務をやってくれる人や、言ったことを代行してサマリーに打ち込んでくれる人等がおり、手術以外の医師の業務は日本に比べるとかなり少ないです。

 

実際にこれだけのHi-volume centerをみて、数多くの症例をこなすにはやはり医師、コメディカルを含めた人員を充実させることが不可欠だと感じました。