心臓外科インド留学日記

卒後沖縄の市中病院で研修し、3年間大学病院の心臓外科に所属していました。2017年3月よりインドのバンガロールにある病院で心臓外科フェローとしてトレーニングを始めました。

手術以外の業務

新しいコンサルタントの下で働くようになってから手術以外にも病棟業務、外来、データ整理、サマリー、他科へのコンサルト等、他のレジデントと同じ業務を求められるようになりました(というか、データ整理がある分レジデントより多いです...)

 

今までは手術に集中していれば良く、日曜日は休みだったのですが、今は休日はなしで働いています。

病棟業務は日本ほど大変ではないのですが、インド人特有のlazyさにはかなりストレスが溜まってしまいます。

朝手術が始まる前に回診に行き、採血やエコー、レントゲン等をやるように頼んでも、夕方になっても結果が出ていることはほとんどありません。そこでまた急かしてようやく数時間後に結果が出るという感じです。

ナースステーションでは患者や家族が前を通っているのにコーヒーを飲み、お菓子を食べており、上の先生が通った時だけおしゃべりをやめるといった感じです。

 

かなりイライラしますがインドでは普通なのでしょうか。他の国がどのような感じなのか気になるところですね。

インドの食事

やはりインドで生活する中で一番つらいのは食事です。

食事が合わずこちらに来てから半年間で10キロ程減ってしまいました,,,

 

だいたい平日は朝から晩まで病院にいるので三食とも病院で食べています。

朝はイドゥリという白いパンのようなものとサンバルという日本でいう味噌汁のような辛いスープ。

昼はチャパティやロティとカレーの組み合わせ。

夜はフライドライスやサウスミールスと言われる南インドの定食のようなもの。

野菜や魚を食べる機会はほとんどなく、基本的には炭水化物のみといった感じです。

 

高級レストランまで行けば美味しいインド料理を食べられるのですが、車で1時間ほどかかってしまうので数ヶ月に1回しか行けません。

住んでいるところ周辺では美味しいと思う食べ物はなく、食事が楽しみではなく、まさに生きるためになんとか口にしているという感じになっています,,,

 

あと1年4ヶ月程の予定ですが、もうインドの食事に慣れることはないと思うので日本から送ってもらいながらなんとか暮らしていきたいと思います。

 

近況

久々の投稿です。

やはり少しサボってしまうと駄目ですね,,,

 

9月から新しいコンサルタントの下でトレーニングを行なっています。

プリヤンカという弁形成を専門とするコンサルタントです。

見た目は太ったおっさんといった感じで、非常に気性が荒く常に怒鳴っていますが、細かい作業がうまいです。

 

特にリウマチ性のMS、MRに対する弁形成は非常に勉強になります。肥厚した組織を薄皮を剥ぐように丁寧に剥離していき、comissureの形を整え、逸脱があれば人工腱索をたて、リング(大抵はカーペンターエドワーズのclassic ringかSJMのsaddle ring)を使って形成します。

一度形成を試みたらどんなに時間をかけても形成で終わらせるという姿勢も勉強になります。

 

現在私が任されている手技としては、開胸、人工心肺装着、人工心肺離脱、止血、閉胸であり、メインのところだけコンサルタントが手洗いをして入るといった感じです。

週に6件ほど人工心肺着脱を行うので基本的な手技を鍛える場としてはこれ以上ない環境と言えるかもしれませんが、やはりここまで来ると執刀の機会が欲しくなってしまいます。

 

これからはサボらないように近況をアップしていきたいと思います。

コスト削減

この病院のコンセプトとしてとにかくコストを削減して患者の経済的負担を少なくするということがあります。

 

ただICUでの術後管理に関してはそこまでコストを削減しようと努力している感じはしません。

ECMO、IABP、透析は積極的に回しますし、高価な薬剤も躊躇なく使っていて、そこまで日本と変わらないなという印象を受けます。

むしろ手術時間も長くICUの滞在期間は日本よりも長いため、日本とインドで同じ物価ならインドの方がよりコストはかかっているのかもしれません。

 

こちらに来て気付いた日本ではみられないコスト削減の主な方法は以下のものが挙げられます。

・可能な限り道具は再利用

・高い手術器具や材料は使わない

・人件費の削減(というより給料が低い)

・患者の家族が24時間付き添って身の回りの世話ができるようにし退院がスムーズにできるようにする

 

上記に挙げたコスト削減の方法、特に道具の再利用や家族の付き添いはある程度は可能だと思うので日本の病院も見習っていくべきかなと思います。

緊急症例

こちらにきて驚いたことの一つに、緊急手術をほとんどやらないということがあります。

 

もちろん心移植や出血再開胸の場合は緊急手術を行いますが、Stanford A型の急性大動脈解離の場合はほとんど緊急で手術を行うことはありません。

 

予定手術に影響が出るというのが理由なようですが、急いで手術の準備をするということをせず、しっかりと術前検査を進めるので、coronaryに解離が及んでいるような患者は手術の前になくなってしまうことが多いです。

 

確かにこちらでは大血管の手術が元々少なく、成績も良くないのですが、すぐに手術室に運んでいればなんとかなったんじゃないかな…という患者もいて、もどかしい気持ちになることもあります。

 

そう考えると日本にいたときは急患が来てもすぐに手術室を準備してくれていたので救命率も高く本当に恵まれていたなと感じます。

 

ただ手術の件数や成績を維持するためには高リスクの緊急を避けて予定手術に集中するというのも納得できるので、何を重要視するかによって答えが変わってくる難しい問題かなと思います。

インド人の性格

私がこちらで5ヶ月間生活してみて感じることですが、基本的にインド人は優しい人が多いなという印象を受けます。

 

拙い英語でも真剣に聞いてくれますし、こちらが聞き取れなくても何度でも同じことを話してくれます。

最初の頃ホテル住まいだったときは夜遅くなったときは危ないからと当直の日も抜け出してホテルまで車で送ってくれ、朝早いときは迎えに来てくれたりしました。

 

こちらの人からすると「日本人は親切」というイメージがあるようですが、実際にどちらの生活も体験してみると、親切さだけでいうと日本人もインド人にはかなわないなと感じます。

 

時間にloose、ゴミをそこらじゅうに捨てる、何回も同じことを言わないとやってくれない、お金をぼったくろうとする、デリバリーを頼んでも来ないことがある、などイライラすることも多いですが、インド人の親切さのおかげでここまで楽しく過ごせているのかなと思います。

先輩心臓外科医

先日インドネシアでフェローを行い、現在日本でご活躍されている先生が見学にいらっしゃいました。

 

インドネシア留学を志した動機、留学時代の手術経験、インドネシアでの生活、今後の目標などをお話ししていただきましたが、ものすごく刺激を受けました。

 

同じアジアでもインドとインドネシアでは留学環境は大きく違うようです。

手術に関しても先生はインドネシア時代に一通りの手術を執刀できるようになり帰国していますが、残念ながらインドではそのような経験をできる可能性はほぼありません。

 

ただここに来てから日本では得ることのできないことを大量に経験できているのは確かなので、先生が実践しているように日本に帰ってからその経験を他の外科医に還元できるようになれたらなと思います。